夏の幻影

茹だり腐り落ちた鳥の亡き骸が、スイカズラの茂みに埋もれている。

その姿は夏日に枯る青い果実のようにも見えた。

 

好天とも荒天とも言うべき調子で太陽は嗤っている。

 

呪いにも似た感情を覚えながら空を仰ぎ見ると、陽光の鋭さから逃げるように夢から覚めた。

酷い悪夢だ。

ベッドを見ると大きな汗染みが出来ていた。

 

コップに水を注いで飲み干し、夏虫の喚く方を見遣る。

道行く人々は深緑の木々に生気を吸われているようだった。

 

ふと机上を見ると、書きさしの小説が口を開けていた。

「気を衒った出立ちで死んだように生きる者、我が性と言わんばかりに踊り狂う者、全てを諦めている者。くだらない季節だ。皆々、夏の暑さに気が触れてしまっている。」

 

気が触れているのは僕も同じだ。

3年前に妻を亡くしてからは、失われた幸福に縋るように生き、その無益さにまるで気付こうともしない。

ただ、僕をこの世に繋ぎとめておくものはそれしかなかった。

茹だるような暑さが、この世に繋がる鎖の幻影を作り出しているようにさえ思えた。

統べて、この炎天こそが有象無象を生に狂わせていた。

 

ペンを執り、書きさしの小説に綴る。

「このくだらない季節を、人々を狂わせる夏を、僕は愛している。」