たまねぎ

春めく麗らかな昼下がりのこと。

僕は夕飯の材料を揃えにスーパーへと足を運んだ。

カレーでも作ろうと思い、にんじん1本とじゃがいも2つをかごへ入れ、たまねぎを探す。

 

「おかしいな、いつもはこのあたりに置いていたはずなんだけど…。」

 

暫く探していると、入口からほど近い所にたまねぎの売り場を見つけた。

しかし、そこで売られていたのは僕の知っているたまねぎとは違っていた。

新たまねぎと言うらしい。

今までに見てきたものと比べると色は薄く、触り心地もどこか脆そうな印象を受けた。

 

「へえ、これが新しいたまねぎか。野菜にもアップデートとかリニューアルとかあるんだな。」

 

僕はそう思った。

会計を済ませて家路につくと、ふと疑問が浮かぶ。

 

「旧たまねぎはどうなってしまったんだろうか?」

 

そう考え始めると、旧たまねぎのことが頭から離れなくなっていった。

カレーを作っているときも、お風呂に入っているときも、テレビを見ているときも、寝る前も、気がつけば僕は旧たまねぎのことを考えていた。

 

「もう市場は完全に新たまねぎに置き換わってしまっていて、旧たまねぎが売られることは無いのだろうか…。」

 

明くる日、そのことを友人を話すと僕は酷く馬鹿にされた。

 

『あはは!!お前馬鹿だな!!あれはな、収穫時期が普通のたまねぎより早いんだ。普通のたまねぎと違って出荷前に乾燥させないから色も白い、ただそれだけだよ。』

 

僕はたまねぎ1つでこんなにも赤恥をかかされることになるなんて思いもしなかった。

もう二度とたまねぎなんて食べてやるものか!と言ってしまいたくなるほどだった。

そんなことがあってから幾ばくかの月日が流れ、季節は初夏の頃になっていた。

 

「近頃は忙殺されていてコンビニ弁当ばかりの生活だったし、久しぶりに健康的なものでも食べようかな。」

 

そう思ってスーパーへ行くと、野菜コーナーの一角に或る貼り紙を見つけ、僕は目を疑った。

 

「疲れているのかもしれないな…。徹夜続きだったし無理もないか…。」

 

一度を目伏せるように俯いたあと、疲れを振り払うようにして顔を上げる。

それから改めて貼り紙を読み返すが、そこには確かにこう書かれていた。

 

 

《  旧たまねぎ 入荷いたしました!  》