桜が咲いている。
突然目に入ったその光景に、昨日までは無かったものが急に現れたような錯覚を覚えた。
花は好きではなかった。
咲く花に気持ちの全てを左右されるような、季節を強要されるような、そんな気がしてしまうからだ。
今日は其処彼処で入学式があるらしい。
余所行きの衣服を纏った女性が、真新しい制服に身を包むその愛娘を、今にも泣き出しそうな表情で連れていた。
こんな光景ですらも僕を何かに駆り立てるような気がして、心を苛めるのだった。
もし仮に、やっとの思いで育て晴れの日を迎えた彼の子の命をこの場で奪ってしまったら、どんな気持ちがするだろう、どんな目を向けられるだろう。
そんなことを考えてしまうくらいに、僕の心は焼け爛れていた。
枯れていく心根は、散る桜のように美しくはいかないものだ。
花に降られて我に返ると、そんなことを思った。