「また一日が始まる…。」
少し開けた窓の外、漂泊する小鳥をぼんやりと見つめながら、彼女は呟いた。
小鳥は、その声を僅かに捉えていた。
意を解すことはない。
音は獲物や身に迫る脅威を察知するための媒体に過ぎず、頭に植えられた磁針を頼りに帰巣するその生態は、どこか機械的にも思える。
彼女はトーストを齧り、コーヒーから立ちのぼる蒸気に脳が苛まれるのを感じていた。
作業とも言えるこの習慣を何度繰り返してきたか、それを考えることの無益さすらも、忘れてしまっているようだった。
いつもの時刻、鉄の棺桶に攫われて向かう先もまた、いつもの場所。
そこからの時間は単調なもので、気がつけば夜の帳が降りていた。
家路につき、夜凪に大きく溜め息を吐くと、急激な虚無感が襲う。
「何か美味しいものでも買って帰ろう。」
コンビニに立ち寄ると、あつらえ向きに思えたいくつかを気のままカゴに放り込み、会計を済ませた。
家に着くと、冷たく闇をたたえた六畳間が彼女を迎え入れた。
テレビをつけると、けたたましい音が鳴り響き、部屋に僅かな暖かみをもたらす。
コンビニの袋を漁ると、買い覚えのないものが目に入った。
「間違えて買ったかな。」
そう思いつつも口に運ぶと、それは存外に心を満たした。
買ったものを食べ尽くし、虚ろ目にテレビを見ていると、いつの間にか微睡みに落ちていた。
幾ばくの時が過ぎたか、ふと目が覚めると空は次第に白み始めていた。
朝が夜を呑み込んでゆく。
鈍くも優しく心を溶かし込んだ夜は、無情にもその姿を消してしまう。
嗚呼、どうか私を置いていかないで。